本校からのお知らせ
令和元年度福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校卒業証書授与式 式辞
本日、ここに、福島県立ふたば未来学園中学校第一回卒業証書授与式並びにふたば未来学園高等学校第三回卒業証書授与式を挙行することができますことは誠に喜ばしく、学校を代表して皆様に厚く御礼を申し上げます。
また、ここまでお子様の成長を支えてこられた保護者の皆様に心よりお祝いを申し上げます。
中学校の卒業生の皆さん、卒業、おめでとう。皆さんは、猪苗代から広野への移転、転校という困難にも負けずに、全国大会で男女優勝という素晴らしい結果を残すとともに、開校まもない中学校の最上級生として立派に学校生活を送り、今日の晴れの日を迎えました。どうか胸を張って、高校へ進んでいってほしいと思います。
高校3期生の皆さん、卒業おめでとう。3期生は、1期生と共に学んだ最後の世代であり、この学園の黎明期にあって、この学園の礎を築き、校風をつくり出してきた世代です。
では、君たちは、どんな校風をつくり出してきたのでしょうか。
それは、第一に、多様性を力に変える対話と協働の文化です。この学校は、本当に多様な人間の集う場所になりました。多様な生徒、地域の皆さん、行政、企業、大学、NPOなど、様々に異なる境遇、利害、考え方をもった人々が、それらの違いを越えて語り合いました。そして、未来を創造していくために、机上の学問で終わらずに現実社会に踏み出して様々な協働を進めました。その中で、君たちは、多様な人が多様なままに共に生きることを学び、多様性を力に変えることを学んだのです。
第二に、困難な中にあってもあきらめず、共に前を向く生き方です。君たちは、演劇やフィールドワークなどをとおして、現実社会の矛盾や容易には解決できない問題から目を背けずに、わかりあえない中にあっても共有できるところをなんとか見つけ出して、それを少しずつでも広げていく、そんなコミュニケーションの仕方が、福島にこそ求められているのだということを学びました。とてもつらい経験をしている人や地域の現実とその背景にある問題の本質にしっかりと向き合うことを通して、自分とは関係ないように見える人とも、傷を負いながらそれでも前を向く、その精神において共感し、共に歩む強さ、レジリエンスを身につけたのではないでしょうか。それは、「福島を生きる」者としての、しなやかで新しい力です。
第三に、自由な精神です。ここで言う自由は、他を顧みず何の制約もなく自分の欲望のままに動くことではありません。異なる価値観や考え方を持つ人達が互いを尊重しあい、共に生きる社会を目指す精神や生き方のことです。そうした意味での自由は、生徒や市民の未熟さを前提として、ルールを守らせ、管理することのみでは決して実現しません。本校生徒会は、今年度、生徒総会で「宣言」文を決議しました。「ふたば未来学園は私たちがつくる」と力強く宣言したこの文章には、魂がこもっています。この宣言は大きく3つの部分からなります。まず、先生や大人が考えるのではなく、自分たちで考え、決断し、行動しようということ、次に、それぞれの理想、個性を、違いを認め合おうということ、そして、挑戦を積み重ねようということ。本当に素晴らしい。これ以上の宣言はありません。君たちは、この宣言をもとに、学校のルールの一部を自分たちの力で変えました。ここに、確かに自由な精神が芽生えたのです。
対話と協働の文化により多様性を力に変え、共に困難を乗り越える生き方と自由な精神で夢に向かって挑戦し続ける、それがふたば未来学園の目指す変革者であり、学校の姿、校風ではないでしょうか。
しかし、現代の社会には、真逆の風が吹いています。私たちの目の前には、そして世界には、戦争、偏見と差別、いじめ、分断と抑圧、環境の破壊などの課題が満ちあふれています。見えない壁が人と人を隔てつつあります。そのような時代だからこそ、国籍、性別、文化、価値観の違い、多様性を尊重しあい、むしろ力に変える、そんな生き方をしていってください。多様な人と対話し、違いを越えて協働する、本校でやってきたまさにそのことを、人生の様々な局面で、これからも続けていってください。
そして、自分とは関係ないように見える人とも、傷を負いながらそれでも前を向く、その精神において共感し共に歩む「福島を生きる」者としての、しなやかで新しい力こそが、これから何十年にもわたり続く復興と、福島を生きる私たち一人一人の道を照らす光となるのです。
また、ここ双葉郡、福島がそうであるように、世界のあらゆるところで、スポーツの世界でも、変革、独創、イノベーションが待ち望まれる時代を迎えています。そのためには、君たちが本校でやってきたように、のびのびと、楽しく、柔軟に、発想を転換して、新しい組み合わせや新しい解釈、新しい視点を持って、自由に様々なことに挑戦していってほしいと思います。
君たちは、本校での学びを通して、混迷を深める世界、いわば大海原を進む上で必要な羅針盤を手にし、共に櫂をこぐ友を見いだし、嵐を乗り越えて新しい世界を発見していく力を身につけたのです。
さあ、新しい航海が始まります。自分の手でドアを開き、前へ進んでください。いつの日も、世界の多様性にひるまず、むしろ楽しんで。様々な人と語らい、力を合わせて。与えられるのではない、自分たちでつくりだす「未来」へ。
令和2年3月1日
福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校長 丹野 純一