早稲田大学レジリエンス研究所(WRRI)所長 松岡俊二先生の 「2050年の福島浜通りの地域社会を考えよう   1F廃炉や復興はどうなっているのだろうか?」 を以下にまとめます。 ・・・・・・・・・・・ 双葉郡の潜在的な価値として イチエフ廃炉があると考えています。 2011.3.11はスリランカにいました。 それまで途上国の環境協力をやってましたが、 原発の爆発は大きなショックでした。 学生にも温暖化対策のため 安全に原発を使っていくのが大切だ、 と講義をしていたので。 日本に戻って、大学の仲間などに声をかけて 2011年4月くらいから福島の原発事故の研究を始めました。 色んな形で浜通りの方にも調査に出かけていたところ 2016年の12月24日に 家族の団欒を邪魔するような電話が 広野の遠藤町長から入りまして 「松岡先生、 ぜひ早稲田大学の存在を  住民の目に見えるようにしてください」 と頼まれ、 2017年5月に 早稲田大学ふくしま広野未来創造リサーチセンター を立ち上げて、 4年ぐらい前から、 「復興について結論を求めず議論をし、  その中から新しい発見をしましょう」ってことで ふくしま学(楽)会という学会を作りまして、 世代を地域を分野を越えて復興を考える会を立ち上げました。 今年の夏で第8回です。 福島の復興について、 社会や住民にとって良いことはなにか、と考えています。 いわきの吉田さんというNPOの方 (今日も審査員でいらっしゃってますが)から、 「いろんな学者が福島に来て調査をして  論文を作るのはいいんだけど、  データ集めて論文書いてそれでおわりで、  福島の人に何も返してないじゃないの。  学者は何か好きなことをやってるだけで、  復興に役立ってない。  研究の成果を福島に還してください」 と強く言われ(私も気になってまして) 3年前ぐらいから、 「2050年の持続可能な福島浜通り地域社会の形成」 というのを考えました。 社会イノベーション… 新しい社会の仕組み・組織・制度を作ることによって、 地域再生を行いましょうという意図です。 廃炉そのものも100年を超える事業で、 簡単にできることではないけど、 その廃炉を、 浜通りの潜在的な価値として表に出して 再生を図りましょうという提案です。 廃炉は地域の住民にとって分かりにくく 負の遺産として見られています。 私はそうしたマイナスの価値・負の遺産を どうしたらプラスに転換できるか考えてみては…、 というお話をします。 内容が難しいんですが、要点だけ押さえてもらえれば。 イチエフ廃炉は普通じゃないのでリスクがあります。 事故のリスク・震災のリスクを科学に問うというのは 当然大事なことです。 ただ、こういう稀にしか起きないリスクは、 科学で答えを出す、 というのができない問題ではないでしょうか。 それをトランス・サイエンス… サイエンスを超えた問題だと位置付けてます。 科学っていうのは実験をしたり、 再現をしたりして理論を作るのですが こういう地震や廃炉は実験できない。 こうしたものがどう推移するのは 専門家でも一つの結論を出せるものでないと考えています。 科学で研究しなくちゃいけないけど、 科学で答えは出せない。 そしたらどうするかっていうと 科学者と政治行政、地域の人… みんなで考えていく事をしなくちゃいけない、となります。 専門知の限界なんて言います。 イチエフ廃炉もそうした問題です。 処理水の海洋放出問題も、専門家の委員会がありますが、 はじめから多様な専門知、地域社会と対話をしてれば、 違った結果を得られて可能性がある。 廃炉についても正解を今決める必要ないし、出来ない。 むしろいろんな可能性があるということを表に出して、 しっかり議論をしていくのが大事だと考えています。 廃炉の先については福島県、 双葉町大熊町は更地の状態… 「グリーンフィールドにしてください」っていうのが立場です。 一方で原子力の専門家は、 「30~40年で作業が終わって更地になるのはあり得ない」、 「非現実的な語りは人をだますことになりますよ」、 と行政との立場に開きがある。 イチエフとスリーマイルアイランド原発の事例を比較します。 後者は4年3カ月かけて134トンのデブリを取り出しました。 イチエフはデブリの量が880トンある。 同じ作業効率で取り出したとしても28年かかるし、 スリーマイルより条件が悪いから、 ロボットアームを使うとなると、 甘い数字で68年、現実的なものとして170年かかる。 結局、こういう問題になってくると、 今の時点で イチエフが将来こうなると決めつけて 物事を進めることはできない。 非常に広い幅がある可能性を含めて考えていくのが大事だし、 更地にするのでない、 たとえば事故の遺構にするという選択肢もあっていいのでは。 富岡町のある方から世界遺産登録したらどうか、 と提案があったので、 今後その可能性を議論するつもりです。 ちなみにチェルノブイリも登録計画中です。 原爆ドームは1966年に市議会が永久保存を決議し、 96年に世界遺産登録された。 福島においてこれからの長い時間の中で、 負の価値をプラスに転換していくということを含めた 多様な選択肢を考えていくようになれたら良いです。 地域の人も もっと廃炉について関心がもてるようになれば と思い研究を続けています。