福島大学 食農学類 小山良太先生 「震災10年以降の福島県農業と新しい産地・ブランド形成の可能性」 を以下にまとめます。 ・・・・・・・・・・・ 原発事故、食と農の分野を、 県として重点的に研究開発していこうってことで食農学類ができた。 2011年3~4月は広範に高い線量が出た。 10年たった今でも、 多くの国にとってフクシマは10年前の事故のイメージのまま。 ポジティブなイメージを出し続けていかないといけない。 先日、アメリカが福島含む農産物輸入を全面解禁した。 それにつづいて台湾も。 台湾は私、一昨年原子力規制員会と、 日本でいう文科省に報告したんですが、 その時台湾政府から「中国より先に輸入再開したい」と言われた。 一方、安全性とは別の理由で輸入制限をしている国もある。 安全性をこの10年高めてきたけど、 情報がないっていう理由や 政治的理由で、安全性がなかなか認められてないという状況。 じゃあ今福島の農業、どうなっているのか。 流通面で言うとなかなか厳しい。 試験栽培は法律上、全部廃棄しなくちゃならない。 市場に回しちゃいけない。 流通しないっていうことは 2011年に廃棄した35万トンに代わるものが買われているってこと。 実は2011年は福島は新品種「天のつぶ」を出した。 デビューの年だった。 同じ年に北海道の「ゆめぴりか」、山形の「つや姫」が出た。 ポストコシヒカリの三代品種がちょうど市場に出る年だったんです。 なのに福島はコシヒカリ、ひとめぼれ、天のつぶ、 すべて市場から撤退することになった。 35万トンを別な品種が埋めた。 ゆめぴりかとつや姫は こういう言い方するとあれだけど、 めちゃめちゃタイミングよかった。 ライバルの福島がちょうど抜けたところに入りやすかった。 なんでそれ言ってるかっていうと、 ゆめぴりかとつや姫はその後ずっとトップブランド。 お米は一度市場に入ってポジションを獲得すると、 一年間ずっとそのままです。 福島は市場を奪われた中、自分のポジションを取り戻せていない。 一度マーケットから抜けてるから、下がったままになってる。 いちごの探究がありましたけど、 今までマーケットになかったものは評価される。 新規のマーケットを開拓してるっていうのが福島の現状。 米と肉のマーケット奪還は難しい。 いちご、モモ、ナシ…これは旬があってそこの勝負だけど、 お米と肉は貯蔵できるから一年中出荷可能、 言い換えれば一年中競争にさらされていて、なかなか回復しづらい。 これはあとでも述べます。 新しい産地や販売戦略が求められてる。 中間貯蔵施設の問題、 除染の問題、 処理水の問題に対処せざるを得ない中、 新しい産地どうやって作ればいいのかな。 本当は安全なんだけど、 報道などによって買い控えや取引停止されることが風評被害です。 これは福島に限らず、 たとえば水俣とかチェルノブイリとか、世界中で起こっている。 チェルノブイリ、事故前より人口が増えてるんですが そんな情報知らないですよね。 そういうものなんで、正確な情報を更新していくかが重要になる。 安全な情報を伝える主体の信頼度が「安心」につながる。 安全+信頼=安心、というわけ。 コロナ禍のブラジルのように 大統領が反ワクチンだとすると大変になっちゃう。 トリチウムはIAEAの基準より下であれば、 科学的に影響あるとは証明されてない。 だけど「安全だ」と言われても、 信頼の問題で許容できない場合にもなっちゃう。 ここはすごく重要な要素。 実際に福島がどう思われているか、 事故直後国内の2割の消費者は福島産を避けるとされていたが、 今は8%かそれ以下。 一方「福島で放射能の検査をしているのを知っていますか」 というアンケートには事故直後は2割。 今は「検査してるかどうかわからいけど、スーパーで売ってるなら」、 と購入する層が増えている。 風化が進んだということを示している。 大事なのは「安全である」ということを 一度でも理解したうえで風化してくれること。 一番怖いのは、事故直後のイメージで風化すること。 日本人のチェルノブイリの印象はそうなっている。 福島がそうなっちゃうと、 例えば海洋放出、 今後の廃炉のトラブルなどがあるたびに 「危ないんだ」「修学旅行やめとこ」となっちゃう。 どこかで一度総括して、 安全性のレベルはここまで来てるんですよ、としたい。 みなさん、英語で発信してみるとか、 韓国の探究もありましたのでハングルとかでも。 韓中台では4割が科学的に安全でも「輸入再開すべきでない」としてます。 これが安全+信頼の結果。 日本政府が信用できないんですね。 どうすれば信頼のおける主体となれるか。 海外で私は次の点を主張することで安全性を説明しました。 土壌測定、 水田は水を使うから米は全量全袋検査をしていること、 生産物の測定、 可視化したマップの提示など情報提供、です。 繰り返しになりますが 貯蔵がきく肉と米は取り戻せてないんです。 震災前、福島牛はほぼ全国平均だったが、 事故後は全国平均との差が開いた。 この損害が毎年積みあがっている。 ブランド価値に傷がついたということです。 米も毎年低い。 2015年は60キロ当たり1500円も全国平均との差が開いた。 10ヘクタールで15万円。 構造が変わったのが最大の損害です。 業務用米の割合が増えた。 最後、震災前は福島の米のシェアNO1だった沖縄県の 2017年の原料内容証明書を紹介します。 「北海道・新潟・青森・宮城・秋田・山形・岩手のお米を使ってます」 という表示。 これ、どういうことかというと、 「福島県の米は使ってません」 と書くと怒られちゃうから。 こんな売り方をしているんです(いまはしてませんが)。 産地ブランドとして確立してない。 これをいかに回復していくのが今後の課題です。